商談の5分前。受付で名刺入れを出そうとして、バッグの中を探している。相手は目の前で待っているのに、なかなか見つからない。
これは、ビジネスバッグの広告を考えるための仮の場面です。この人に「収納ポケットが多い」と伝えるなら、その機能がどんな瞬間に役立つのかまで見せたい。商談前の焦りが少し減る。その変化を想像できて、初めて商品の説明が自分の話になります。
Google広告に組み込まれた動画生成AI「Veo」を、僕ならこうした顧客が購入を考える場面の検証に使います。制作が速くなるほど、何を確かめるための動画なのかを先に決めることが大切になります。
この記事では、Veoで何ができるのか、なぜ顧客の場面から考えるのか、どう動画と検証に落とし込むのか、結果によって次の行動をどう変えるのかを、一つの例でつなげて説明します。
何が変わったのか:商品写真を、広告用の動画素材へ
Googleは2026年3月、Google広告のAsset StudioでVeoを利用できると発表しました。公式説明では、最大3枚の静止画を素材に、各画像から最長10秒の動画を生成し、テンプレートで広告へ仕上げる流れが示されています。[1]
アパレルブランドRhoneが既存素材を活用する例も掲載されています。ただし、この紹介から売上や顧客獲得単価がどれだけ改善したかまでは判断できません。
別の2026年の公式発表では、Gemini・Veo・Nano Bananaを組み合わせ、企画の指示から絵コンテ、制作へ進むワークフローも示されています。[2] 利用できる機能や画面は、実際のアカウントで確認してください。
これらをマーケティングの仕事に置き換えると、既存の素材から複数の表現案を試す負担が下がる、と考えられます。そこで必要になるのが、作る前の「今回、何を知りたいのか」という問いです。
なぜ重要なのか:機能が、顧客の生活とつながるから
同じバッグを見ていても、購入を考える理由は一つではありません。荷物を整理したい人もいれば、通勤と出張で兼用したい人、仕事着との相性を気にする人もいます。
たとえば「収納力」という言葉だけでは、読む人が自分で用途を補う必要があります。受付で名刺入れを探す場面なら、「自分にもある」と感じる人がいるかもしれない。場面を描く意味は、機能と日常の困りごとの間にある距離を縮めることです。
ただし、作り手が思いついた場面が、そのまま顧客の本音になるわけではありません。「商談前の焦りを減らしたい」というのも、この段階では仮説です。実際の話を聞き、広告への反応と照らし合わせて確かめます。
| 購入理由の仮説 | 動画で描く場面 | 商品側で確認すること |
|---|---|---|
| 必要な物を迷わず取り出したい | 商談前の受付 | 収納位置と実際の出し入れ |
| 通勤と出張の荷物を一つにまとめたい | 駅での移動と荷造り | 容量・寸法・収納できる荷物 |
| 仕事着に合わせて持ちたい | 全身の服装とバッグ | 実物の形・色・大きさ |
ここで、背景や音楽だけを変えた動画を何本も作っても、顧客が選ぶ理由については学びにくい。僕が最初に変えたいのは、伝える購入理由です。映像の工夫は、その理由を分かりやすく見せるために使います。
そしてもう一つ。制作時間が短くなったなら、その一部を顧客との会話に戻せます。作業を減らして生まれた余白を、何に使うのか。AIの活用では、そこまで考えておきたいと思います。
どう進めるのか:一つの購入理由を、15秒の動画へ落とし込む
ここからは、バッグの販売会社を想定した実務案です。実施済みの成果報告ではありません。
1.「欲しい機能」より、直近の出来事を聞く
購入者や検討中の人に、まず「今のバッグで最後に困ったのは、いつ、どこでしたか」と聞きます。続けて「そのとき何を探していましたか」「どうやって対処しましたか」「買い替えようと思ったきっかけは何でしたか」と具体化する。
最初から「整理しやすいバッグなら欲しいですよね」と聞くと、こちらの仮説に話を寄せてしまいます。出来事を聞けば、困った場面だけでなく、今のやり方で十分な理由も出てくるかもしれません。
記録では、本人の発言とこちらの解釈を分けます。たとえば実際に「受付で名刺入れを探した」と聞けたとしても、「商談での印象を悪くしたくない」はこちらの解釈かもしれない。次の会話や検証で確かめる対象として残します。
AIには、匿名化した記録から場面や共通点を整理してもらえます。ただ、記録にない気持ちや発言を補わせないこと。情報が足りないと分かることも、次に聞く質問を決める材料になります。
2.一本で確かめることを、一文にする
今回なら、検証したいことをこう置きます。
商談前に物を探して困った経験がある人に、収納位置と取り出す動作を見せると、商品の詳細や購入を検討してもらえるか。
これなら、動画で何を見せる必要があるかが決まります。「高品質で便利なバッグ」という広い説明よりも、絵コンテへ落とし込みやすくなります。
3.AIで作る場面と、実物で見せる場面を決める
下の表は、編集後の完成動画を15秒にする例です。Veoで15秒全体を一度に生成するという意味ではありません。生成した短い素材と実写を、編集工程で組み合わせます。
| 秒数 | 見せる内容 | 素材と役割 |
|---|---|---|
| 0〜3秒 | 受付でバッグの中を探す場面 | AI生成のイメージ素材で状況を伝える |
| 3〜9秒 | 実物の収納位置と取り出す動作 | 実写で商品の構造と使い方を示す |
| 9〜12秒 | 仕事着に合わせた実物の全体像 | 実写で大きさや見た目を確かめてもらう |
| 12〜15秒 | 商品名と「収納の詳細を見る」 | 編集時に正確な文字と案内を加える |
受付で探す焦り、移動の雰囲気
「自分にもある」を考える材料
収納位置、寸法、取り出す動作
購入前に確かめてもらう材料
二つを編集でつなぎ、顧客の反応を検証する。
AIで、存在しないポケットや不自然に滑らかな出し入れを描けてしまうことがあります。生成映像だけでは、その商品の使いやすさを証明できません。実物を見せる場面を先に決めておけば、生成する素材の役割も明確になります。
場面の制作指示は、たとえば次のように具体化できます。これは制作担当や生成ツールへ渡す指示の例で、特定の入力欄や出力精度を保証するものではありません。
平日のオフィス受付。商談前の人物がバッグの中を探している、3秒程度の場面案。焦りは控えめに表現する。文字、ロゴ、商品の内部構造は描かない。この素材は利用場面のイメージとして使い、商品の機能を示す実写へつなぐ。
「売れる動画を作って」だけでは、何を優先すべきか伝わりません。誰が、どこで、何に困っていて、このカットは何を伝えるのか。そこを人が決めると、生成結果を採用する基準も持てます。
4.配信前に、比較条件と止め方を決める
次に、受付の場面と、通勤・出張の兼用を伝える場面を比較する案を考えます。予算が少なければ、まず二案に絞る。三案を必ず同時に出す必要はありません。
商品、価格、特典、誘導先、主な配信対象、動画の長さはできるだけそろえます。一度に価格やページまで変えると、どの違いが結果に関係したのか分かりにくくなるからです。
同じ広告グループへ入れるだけでは、均等に配信されるとは限りません。利用できる実験機能や配信設定を確認し、実際に届いた人と配信量の偏りも記録します。条件をそろえられない場合は、結果を次の仮説を作る材料として扱います。
開始前には、購入完了を計測できるか、重複計上がないかを確かめます。そのうえで、検証に使える総予算、通常の検討期間を踏まえた観察期間、計測不良や商品表現の誤りがあった場合の停止条件を決めておく。十分な購入データが集まらなければ、結論を保留することも予定に入れます。
やってみたら、どう判断するか:数字を次の行動につなぐ
ここが、動画を作った後の大事な部分です。説明のため、三つの広告に次の結果が出たと仮定します。すべて架空の計算例で、実績・相場・推奨予算ではありません。
| 訴求案 | 広告費 | クリック | 購入 | 購入率※ | 購入1件の広告費 |
|---|---|---|---|---|---|
| A:整理しやすさ | 30,000円 | 300 | 6 | 2.0% | 5,000円 |
| B:通勤・出張の兼用 | 30,000円 | 150 | 9 | 6.0% | 約3,333円 |
| C:仕事着との相性 | 30,000円 | 600 | 3 | 0.5% | 10,000円 |
※この表の購入率は「購入件数÷広告クリック数」。購入1件の広告費(CPA)は「広告費÷購入件数」。実運用では、計測期間や購入の数え方もそろえます。
Cは最もクリックされていますが、この表では購入1件に必要な広告費も最も高い。クリック数だけで判断すると、事業にとっての成果を見誤る可能性があります。Bも購入9件なので、この数字だけで安定した勝ちパターンとは言い切れません。
僕なら、次のように判断を分けます。
クリックは増えたのに購入されない場合。 広告を見て期待した内容が、商品ページで確かめられるかを確認します。兼用を訴求しているのに、荷物の収納例が載っていなければ、検討に必要な情報が足りないかもしれません。価格、送料、在庫、計測も確認し、原因を一つに決めつけないようにします。
購入されても、問い合わせや返品が増えた場合。 「思ったより小さい」などの理由があるなら、映像が作った期待と実物の差を調べます。売れた本数に加えて、その後に増えた対応の手間も見る。広告が事業に残した結果まで確かめたいからです。
購入につながり、採算も合いそうな場合。 同じ購入理由で表現をもう一案作り、別の期間でも反応を確かめます。特定の映像の出来栄えが良かったのか、その理由が顧客にとって重要なのか。次の検証で少しずつ分けて考えます。
採算を見るときは、購入1件の広告費だけで終わらせません。売上から原価、配送、決済手数料、返品対応などを引いた後に、どれだけ残るか。将来のリピート売上を含めるなら、それも実測で確かめます。
反応が弱かったときも、すぐに「AI動画は効かない」とは決めません。場面の仮説、見せ方、配信対象、商品条件のどこを見直すかが分かれば、次の一本に意味が生まれます。
法人向けサービスなら、「導入後の仕事」を具体的に見せる
この考え方は、BtoBにも応用できます。たとえば営業資料の作成支援なら、「AIで効率化できます」という説明を、提案直前に古い資料を探している場面へ置き換えて考える。
前半で仕事の状況を描き、後半では実際の操作画面を見せます。どの資料を入力し、何が出力され、どこを人が確認するのか。導入後の仕事が想像できるところまで説明すると、検討者が自社に合うか判断しやすくなります。
確認する成果も、資料請求の数だけでなく、想定する課題を持った企業から相談が来たか、商談で何が確認されたかまでつなげます。問い合わせは増えても、対象外の相談への対応が増えるなら、広告で示す対象や条件を見直す必要があります。
AIで生まれた余白を、何に使うか
AIで動画を作る速さが上がれば、これまで試せなかった案にも手を伸ばせます。その価値を事業へつなげるには、顧客の言葉、仮説、使った表現、結果、次の判断をセットで残しておくことです。
その記録は、次の広告や商品ページ、営業の説明にも使えます。制作物が増えるだけでなく、「どんな人が、どんな状況で選ぶのか」という理解が積み上がっていく。
僕は、AIで作業を減らすなら、人が考える時間と、暮らしの余白も取り戻していきたいと思っています。浮いた時間をすべて追加の制作で埋める前に、顧客に一つ話を聞く。そこで分かったことを次の表現に反映する。そうした往復を続けられる仕組みを作りたい。
最初の一歩は、あなたの顧客が最後に困った場面を、一つ具体的に聞くことです。その場面から、次の動画で確かめる問いを作ってみてください。
参考資料
公式情報確認日:2026年9月23日。記事中のバッグ・法人サービス・数値は説明用の仮の例です。
- Google「Resonate with the YouTube audiences that matter most to you, with Veo in Google Ads」(2026年3月)。https://business.google.com/us/accelerate/announcements/veo-google-ads/
- Google「Multimodal Video Creation in Asset Studio」(New for 2026、ページ上の年月日表記なし)。https://business.google.com/us/accelerate/announcements/multimodal-video-creation-in-asset-studio/

