AIで動画を作ったとき、「AI生成と表示すれば公開できる」と考えていないでしょうか。
表示は大切です。けれど、AIラベルが解決するのは主に「視聴者へ生成・改変を知らせる」という透明性の問題です。本人の顔や声を使う許可、広告で述べる効果の根拠、動画とランディングページの整合まで自動的に満たすわけではありません。
僕が公開前に分けたいのは、次の三つです。
- 開示:AI生成・改変を、どの媒体・地域・形式で知らせる必要があるか
- 権利:顔、声、映像、音楽、素材を、その用途・期間・地域で使えるか
- 主張:広告の効果、実績、価格、提供条件を、証拠と公開中のページで確認できるか
この記事では、この三つを一枚の「公開判定カード」にまとめます。AI動画を止めるためではなく、確認漏れで公開後に戻る仕事を減らし、人が顧客の判断材料を考える時間を取り戻すための手順です。
「AIラベルを付けた」は公開許可ではない
YouTubeは、現実に見えるAI生成・意味のある改変について、実在人物が言っていないことを言ったように見せる、実在の出来事や場所を変える、起きていない現実的な場面を作る、といった場合の開示を求めています。一方、非現実的な表現や、色補正・背景ぼかしなど主に美的で軽微な編集、企画や字幕などの制作支援は同じ扱いではありません。
Google Adsも2026年7月から、AI生成・改変された画像・動画広告へテキストや視覚ラベルを加えることを認め、広告主が使えるAIラベル設定を段階的に導入しました。ただしGoogleは、そのラベルを使うだけで地域の法令に適合する保証にはならないとも説明しています。必要な開示は、媒体、地域、表現の現実性、使い方で変わります。
さらにYouTubeは、合成人物だと開示しても、他人の顔や声を許可なく使えるようにはならないと明記しています。Google Adsも、AIかどうかにかかわらず、人を欺く加工メディア、不正確な主張、実現可能性の低い結果を通常期待できるかのように見せる主張、広告と遷移先の不一致を禁止しています。
ここから導ける実務上の結論は単純です。「開示したか」「使う権利があるか」「言っていることを証明できるか」は、別々に合格させる必要があります。
具体的な場面:社長のAIアバター動画を出す前に
以下は判断方法を示す架空の例で、当社や顧客の実績ではありません。
BtoB企業が、社長の顔と声をもとにAIアバターを作り、展示会後の見込み客へ次の広告を配信するとします。
導入すれば、営業資料の制作時間を半分にできます。今月中なら初期設定費は無料です。
制作担当は動画に「AI生成」と表示しました。しかし、それだけでは三つの確認が残ります。
- 社長本人は、広告利用、音声合成、配信地域、利用期間、二次編集まで許可しているか
- 「制作時間を半分」という主張は、どの条件・母数・期間のデータに基づくか
- 「初期設定費無料」は現在も提供中で、遷移先ページから容易に確認できるか
開示は必要でも、権利や主張に不足があれば公開は保留です。逆に、AIを台本整理にだけ使い、本人が通常撮影した映像を軽く補正した場合は、媒体の開示対象に当たらないこともあります。それでも、素材権利と広告主張の確認は残ります。
公開前の3層チェック
1. 開示ゲート:何を、どこで、どう知らせるか
最初に「AIを使ったか」ではなく、視聴者が事実と受け取り得る何を生成・改変したかを記録します。
| 確認項目 | 記入すること | 保留にする条件 |
|---|---|---|
| 対象 | 顔、声、発言、場所、出来事、商品映像、音楽 | 何を変えたか説明できない |
| 現実性 | 実在人物・場所・出来事に見えるか | 見る人が実写・実話と誤認し得るのに未判定 |
| 配信条件 | 媒体、国・地域、広告形式 | 配信先ごとの開示方法を確認していない |
| 開示方法 | 媒体設定、動画内表示、説明欄、広告側ラベル | 必要な場所に表示されるか未確認 |
| 証跡 | 設定画面、確認日、担当者、素材版 | 公開後に判断根拠を再現できない |
YouTubeのように媒体側の設定がある場合は、その設定を使います。動画内に自社ラベルを入れる場合も、媒体側設定の代わりになるとは限りません。地域要件や取扱いに迷う場合は、公開を急がず、担当部署や専門家へ確認します。
2. 権利ゲート:ラベルではなく許諾範囲を見る
次に、素材ごとに「誰の何を、どこまで使えるか」を確認します。本人から一度「使ってよい」と言われただけでは、広告、合成音声、海外配信、長期運用、別商品の動画への転用まで含むとは限りません。
最低限、次を記録します。
- 本人・権利者と許諾証跡の保管場所
- 対象となる顔、声、発言、映像、写真、音楽、ロゴ
- 利用目的(広告、営業資料、研修など)
- 媒体、地域、期間、編集・翻案、再利用の範囲
- 取消し、契約終了、退職、素材差替え時の扱い
ストック素材や生成ツールも同じです。「商用利用可」だけで終わらせず、人物、商標、音楽、入力素材、出力物の条件を確認します。許諾の有効期限が切れたら、広告が配信中でも止めて再判定します。
3. 主張ゲート:動画の一文を証拠とLPへ結ぶ
最後に、広告の一文ごとに根拠を置きます。AIは説得力のある言い回しを速く作れますが、根拠まで自動生成してよいわけではありません。
| 広告内の主張 | 必要な確認 | 公開判断 |
|---|---|---|
| 「制作時間を半分に」 | 測定条件、対象業務、比較基準、母数、期間 | 条件が示せなければ削除・具体化 |
| 「今月は初期設定費無料」 | 提供期間、対象条件、LP上の表示 | LPと一致しなければ公開しない |
| 顧客の推薦・導入事例 | 本人・企業の公開許諾、表現確認、結果の条件 | 未確認の引用や数値は使わない |
| 「誰でも同じ結果」 | 再現条件、個人差・会社差、合理的根拠 | 保証に見える表現を避ける |
僕なら、主張の証拠をファイル名だけで残しません。広告文の該当箇所、証拠の場所、確認日、適用条件、LP上の対応箇所を一行で結びます。これで、動画だけ直してLPが古いままになる事故を減らせます。
広告とLPの主張を一枚で合わせる方法は、BtoBの動画広告とLPをつなぐメッセージマップでも整理しています。
そのまま使える「AI動画広告・公開判定カード」
取得できない項目を「問題なし」に置き換えず、未確認と書きます。
| 項目 | 記入欄 |
|---|---|
| 素材ID/版 | |
| 配信媒体・国/地域・広告形式 | |
| AIで生成・改変した対象 | |
| 実在人物・場所・出来事に見えるか | はい/いいえ/未確認 |
| 開示要否・判断根拠 | |
| 開示方法・表示確認 | |
| 顔・声・映像・音楽等の権利証跡 | |
| 許諾の用途・地域・期間・期限 | |
| 広告主張と証拠 | |
| LP対応箇所・提供条件 | |
| 承認者・承認日 | |
| 判定 | 公開/修正/保留 |
| 再確認日・停止条件 |
このカードは、制作担当の自己申告だけで閉じません。内容の責任者が主張を、権利の担当者が許諾を、配信担当が開示方法と実表示を確認します。少人数の会社では同じ人が複数役を担っても構いませんが、確認項目は混ぜません。
版管理や承認者の記録を含む全体設計は、AI動画広告の公開事故を防ぐ制作台帳と組み合わせると運用しやすくなります。
結果別の次の一手
| 判定結果 | 次の一手 |
|---|---|
| 開示不要・権利確認済み・主張確認済み | 判定根拠を残して公開。媒体の自動表示も読戻す |
| 開示必要・権利確認済み・主張確認済み | 媒体設定と必要な表示を行い、公開後の実画面を確認 |
| 権利証跡がない | AIラベルの有無にかかわらず保留。代替素材か正式許諾へ |
| 主張の根拠が弱い | 数字・保証表現を削除または条件付きにし、LPも同期 |
| 広告とLPの条件が違う | どちらかを直し、同じ条件になった後に再審査 |
| 地域要件や人物利用が判断できない | 対象配信を止め、法務・媒体窓口・専門家へ確認 |
AIには「合否」ではなく不足を探させる
生成AIに最終的な法的判断を任せるのではなく、資料の不足や不整合を探す補助に使います。たとえば、次の入力が使えます。
この広告台本、公開判定カード、LP本文を比較してください。開示、権利、主張の三つを分け、確認済み事実、未確認、矛盾を表にしてください。許諾や法令適合を推測せず、証拠がない項目は「未確認」としてください。広告内の各主張とLP上の対応箇所を示し、公開前に人が判断すべき質問を列挙してください。架空の証拠、数値、許諾を追加しないでください。
AIが見落とし候補を挙げても、それは許可や適法性の証明ではありません。人が一次資料と現物を確認し、必要なら専門家へつなぎます。
適用限界
- 本稿は実務の整理方法であり、法律相談ではありません。
- 開示要件、広告ポリシー、プラットフォーム機能は変更されます。公開時点の公式情報を確認してください。
- 必要な開示は、媒体、国・地域、広告形式、表現の現実性、対象者によって変わります。
- AIラベルは、著作権、肖像・声の利用、商標、契約、広告主張の根拠を一括して解決しません。
- 人物の許諾範囲や法令適合が不明な場合は、一般的なチェック表だけで公開判断を完結させません。
- 「公開できた」ことと「広告が成果を生んだ」ことは別です。効果は計測定義と比較条件を決めて検証します。
まとめ:三つの判定を一つの「AI使用済み」に畳まない
AI動画広告では、技術より先に「AIを使ったか」が話題になりがちです。しかし、公開判断に必要なのは、それだけではありません。
僕なら、開示、権利、主張を別々に確認し、三つとも合格したときだけ公開します。AIはカードの下書きや資料比較を速くできます。人は、誰の何を使い、顧客へ何を約束し、どこまで責任を持つかを決めます。
この分担ができると、AI動画を増やすほど確認作業が混乱する状態から、繰り返し使える公開工程へ変えられます。
公式出典
- YouTube Help, “Disclosing use of GenAI content”(2026-11-01確認)
- Google Advertising Policies Help, “Updates to AI labeling requirements (July 2026)”(2026-11-01確認)
- Google, “Google introduces new AI labels for Ads”(2026-11-01確認)
- My Ad Center Help, “AI Transparency in ads”(2026-11-01確認)
- YouTube Help, “Learn about likeness claims”(2026-11-01確認)
- Google Advertising Policies Help, “Misrepresentation”(2026-11-01確認)
- Google Search Central, “Creating Helpful, Reliable, People-First Content”(2026-11-01確認)
画像出典
- アイキャッチ候補:AMONWAT DUMKRUT / Unsplash
- 出典:https://unsplash.com/@amonwatdumkrut
- 素材URL:https://images.unsplash.com/photo-1791782060626-ce983b06d9ce
- 利用:UnsplashからWordPressへ保存。動画制作・確認工程のイメージであり、製品機能・顧客実績の証拠ではありません。
- 確認日:2026-11-01
